Trekking スポーツ記事

トレッキング
  • #Healing Days

よりディープな”祈りの島”の懐へ、一歩踏み込み、おじゃまします。

海に入れない日こそ、
トレッキング日和

「今日みたいに、海に入るには少し肌寒い風が吹いている日こそ、沖縄のトレッキングは最高ですよ」
朝、集合場所に着くと、満面の笑みで迎えてくれたガイドの宮城さん。なんでも、意外にも沖縄にはたくさんのトレッキングコースがあるとのこと。
今日はその中でも、沖縄の北部に位置する今帰仁村から、山の上にある今帰仁城跡へと続く歴史道を歩く。
山に登った経験はちょっとあるけれど、沖縄の山は初めて。そもそも、沖縄でトレッキングが楽しめるなんて、思ってもみなかった。
少しの不安と、まだ見ぬ沖縄の森への期待を胸に、いざ出発!

森の中は、まるで
ジュラシックパーク

森に少し踏み込んだだけで、私が今まで知っていた沖縄のイメージとはまったく違う空気に驚かされた。
南国特有の濃い緑に彩られたジャングルの隙間からは、強い太陽の光が行く先をキラキラと照らし出してくれている。
足下に目を落とすと、山の中なのに大きなヤドカリが歩いていたり、見たことのない色鮮やかな不思議な花や植物がたくさんあって、なんだかジュラシックパークの世界のようだ。

目新しいものを見つけるたびに、ガイドさんに解説してもらえるのが楽しい。
「これはオカヤドカリと言って、天然記念物なんですよ。こっちの植物はゲットウ。葉っぱの匂いを嗅いでみてください。いい匂いでしょ。旧暦の12月8日には、厄払いのためにムーチー(お餅)を作り食べるんです。お餅をこの葉っぱに包むので、沖縄の人はこの匂いを嗅ぐとお餅を思い出すんですよ」

ときには、「それは新種かもしれない!」なんて言われることも。冗談だとは分かっていても、信じてしまいそうになる。
見るもの、聞くもの、感じるもの、すべてが新鮮な1時間ちょっとの山歩き。
あっという間に最初の目的地である今帰仁城跡に到着してしまった。これくらいのトレッキングなら、初心者でもお子さん連れでも楽しめそうだ。



沖縄は神の島、
祈りの島

辿り着いた今帰仁城跡や登山道脇には、沖縄の女性司祭者の祝女(ノロ)が祈りを捧げるための御嶽(ウタキ)と呼ばれる場所がいくつもあった。
今では失われつつあるこうした沖縄の文化が、まだ色濃く残っていて、それを見ながら歩けることも、やんばるエリアのトレッキングの特徴のひとつ。

「沖縄は神の島で、祈りの島なんですよ」というガイドさんの言葉が印象的だった。

 お城の城壁に使われている石も南部とは、まったく違う。沖縄が島になったときに海底から隆起した地層が、南部と北部では異なるかららしい。
「今帰仁は山と海が近いのもいいでしょ? 次は今泊の集落と海岸をトレッキングしてみましょうか」

山を下りるとガイドさんは近くの集落を案内してくれた。汗をかいた肌に、潮風が心地いい。
防風林の役目を果たしているというフクギの並木や、古い民家の建ち並ぶ今泊の集落は、いろいろな映画の舞台にもなっているとのこと。
言われてみれば、なにかの映画やドラマで見たことがあるかも……。

一日歩いていろいろな話しを聞いたあとに、山の上から見下ろした海や散策した今泊の集落の風景。
今まで、ただただきれいだな、とか沖縄っぽいなと感じていた風景が、急に奥深い琉球の歴史とともに立体的に見えてくる。不思議な体験だった。

宿泊と夕飯は
沖縄気分を味わおう

たっぷりとトレッキングと沖縄の文化を楽しんだあとは、今日の宿に選んだ『今帰仁の宿 ハイビスカス』へ。
ここは古民家を改装した宿で、縁側から見渡せる庭先にはハイビスカスやブーゲンビリアが咲き乱れている気持ちのいい空間。
海から吹く優しい風に吹かれながら、ちょっとお昼寝を…。

日が暮れ始めた頃に目覚め、夕飯は併設されている居酒屋にお邪魔して沖縄料理の数々とお酒をいただくことにした。
今日はたっぷり歩いたし、たくさん食べても許されるよね。店内には泡盛が出る蛇口があったり、ついつい飲み過ぎてしまいそうな楽しい造りになっている。
じゃあ、今夜は飲んじゃおうかな!

付き合いを大事にする、
温かい人たち

隣の席では、地元の人たちが楽しそうにお酒を飲んでいた。気になって聞いてみると、「もあい」と呼ばれる会合だとか。
「もあい」とは、毎回参加者全員が一定額のお金を払って、そのお金を毎回誰かが受け取るシステムのこと。
月に一回みんなで集まってお酒を飲み、お金があるときに積み立てて必要なときに受け取れる寄り合いのようなものなのだ。
「沖縄の人は仲間や近所付き合いをすごく大事にするんだよ」と参加者の1人が教えてくれた。

途中から私たちもその飲み会に混ぜてもらった。沖縄の人たちは、とてもシャイだけど温かい。
初めはなかなか話してくれなかったけど、グラスが空けばすぐに泡盛を注いでくれる。お酒が進むごとに段々と気持ちの距離が近づいていくのがわかる。
そういう文化なんだ。次第にみんな饒舌になってきて、沖縄の歴史や文化などいろいろな話をしてくれた。
最終的には周りのテーブルの人も一緒になって大盛り上がりに。これが、日常の風景だそうだ。

人間関係に一定の距離感がある都会での暮らしに慣れていると、驚くかもしれない。
でも、ここには、都心にはない温かな触れ合いが常にある。それが、自分の心もホッと温かくしてくれる。

「よし、みんなで次はカラオケに行こう!」と誘われて時計を見ると、あっという間に日付が変わっていた。沖縄の夜は長い。そして、温かい。

Photo Gallery